明かされる真実

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懐旧するように話し続けていた証の顔が、みるみる翳りを帯びた。 柚子は思わず息を詰める。 「…………愕然とした。 成瀬がそうやって今の地位を築いたことも知ってたし、それに関して呵責を感じることなんかなかった。 俺も経営者の端くれだし、ビジネスの世界は食うか食われるかだって…そう思っていたから。 ………でも、自分の初恋の子が突然いなくなった訳が……しかも父親の残した借金背負ってキャバクラで働いてた理由が……全て成瀬のせいなんだって知った時…… 俺は初めて親父のやり方に疑問を持ったんだ。 成瀬の為に犠牲になった人間の、その後のことなんて考えたこともなくて…… でもそれを初めて目の当たりにして、正直少し……怖いと思った」 証の声がわずかに震え始めたことに、柚子は気付いた。 「確かに、真っ先に頭を過ぎったのは、その子の抱えた借金を何とかしてやらないと…ってことだった。 店も辞めてたし、その後どうするつもりなのか……まさか思い余って自殺なんかしやしねーかって、心配になって……。 いてもたってもいられなくなって会いに行ったら…… その子は必死で生きようとしていた。 夢がある、やりたいことがあるから大学は辞めないって……力強い目でそう言うその子を見て、 ああ、変わってねぇなって…そう思った」 「……………」 「………その子は全然変わってなくて、嬉しいって思う反面、 自分や自分を取り巻く環境がなんて薄汚れてるんだろうって……嫌になった。 嫌になるくせに、その子が『自分を買ってくれ』って言った時……しめたって思った。 奴隷として買うって名目で、借金も返してやることもできるし……しばらくの間でも、その子のことを支配できる…って。 その間にその子の心の中に俺を刻み込んでやれる…って。 短い時間でそんなあざとい考えが浮かぶ自分に……吐き気がするぐらい嫌気がさした」 自嘲の笑みを浮かべ、証は柚子を見上げた。 柚子は何も答えられない。 言葉の代わりにただ、涙だけが溢れ出した。 「軽蔑……しただろ」 「……………」 「罪滅ぼしなんてそんな……立派な人間じゃねーんだ、俺は。 どこまでも自己中で、わがままで……エゴイストなんだよ」 その時、証の瞳がわずかに潤んだかのように見えた。 だがそれを確認する前に、証は目を伏せてしまった。  
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