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奈緒子は買い物かごを放り出して駆け出し、ヒシと柚子を抱きしめた。
柚子は唖然としてされるがままになっていた。
「ああ、柚子…! 柚子…! ずっと探してたのよ……!」
奈緒子はぎゅっと柚子の体をかき抱く。
柚子は息苦しさで顔をしかめた。
周りにいる買い物客は何事が起こったのかと遠慮気味に視線を投げてくる。
柚子は手を伸ばし、奈緒子の背中を軽く叩いた。
「ち、ちょっと、離してください」
すると奈緒子は体を引き離し、今度はじっと懐かしむように柚子の顔を見つめてきた。
柚子は激しい混乱に陥る。
(ち、ちょっと待って、お、お母さんて……探してた…って……何……!?)
柚子はぼんやりと奈緒子の顔を見上げた。
15年前に別れた、かつての母親。
はっきり言って顔なんて覚えていない。
思い出すことすら、ここ最近ではなくなっていた。
それが何故今頃になって、自分の前に現れるのだろう。
何故、こんなに自分を見て嬉しそうに涙ぐむのだろう……?
「色々、話したいことが沢山あるの。あなたさえよければ、今から時間を作って少し話ができないかしら」
「……………え」
未だ混乱の真っ只中にいる柚子は、虚ろに奈緒子の顔を見つめた。
不思議なことに何の感情も湧いて来ない。
懐かしさも、喜びも、恨みも、憎しみも。
ただ降って湧いたようなこの再会に、柚子はただ立ち尽くして、状況を何とか把握しようと努めるのが精一杯だった。
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