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それから二人はマンションを出て、近くのカフェに入った。
注文したカフェオレがくるまでの間、柚子は改めて奈緒子の顔をしげしげと眺めた。
不惑はとうに過ぎているはずだが、30代半ばのように溌剌として若々しい。
派手な印象は相変わらずだったが、歳を取ったぶん艶っぽさが増したというのか、派手な身なりも板に付いている。
「15年ぶりね、柚子」
「…………はあ」
柚子は曖昧に返事を返した。
前に証に話したように、母親に対しては恨みや憎しみといった感情を抱いていない代わりに、懐かしさや会えて嬉しいという感情も湧いてこない。
それ故に、目の前でこうして嬉しそうに涙ぐむ奈緒子と、どこかこの状況を客観視している自分との温度差にひどい違和感を覚えた。
しばらくしてカフェオレが運ばれてきた。
それを一口啜った奈緒子は、ようやく気持ちが落ち着いたようにホッと息をついた。
「橘と別れてからも、あなたのことだけはずっと気になっていてね」
カップを置いた奈緒子はおもむろにそう話し始めた。
「別れてからもちょくちょく、あなたの様子は調べて報告してもらっていたの」
「……………え」
柚子は驚いて顔を上げる。
奈緒子は笑って頷いた。
「中学に上がった、高校生になった、大学に合格した……。頑張って大学に通って勉強してるって聞いて、本当に嬉しかった……」
奈緒子は言葉を重ねる度にいちいち涙ぐむ。
だがそれを聞き、ようやく柚子の中にほんの少し嬉しいという感情が芽生えた。
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