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(……そっか。お母さん、私のこと気にかけてくれてたんだ……)
男の人と一緒に出て行ったものだから、てっきり新しい家庭を持ち、柚子のことなど忘れ去っているものだと思っていた。
柚子はここで初めて自分から奈緒子に話し掛けた。
「でもお母さん、再婚したんでしょう? 子供は……?」
「ええ。再婚はしたんだけど子供はできなかったの」
柚子に質問され、奈緒子は嬉しそうに破顔した。
「………そう、なんだ」
「ええ。相手の離婚調停が思ったより長引いちゃって」
「………………」
(………ダ、ダブル不倫だったのか……)
初めて知る事実に柚子は軽い衝撃を受けたが、奈緒子は気に留めない様子でいそいそとバッグから名刺を二枚取り出した。
「北野っていう人でね。聞いたことないかしら、D,Yアソシエーションっていう会社の社長なんだけど」
「………あ。コマーシャルで聞いたことある」
「そう。その人が今の私の旦那様」
奈緒子は若々しく艶然と微笑んだ。
柚子は絶句して名刺を睨みつける。
(…………マジで!?)
ということは、奈緒子は超の付くセレブということになる。
「それで北野に出資してもらって私も会社立ち上げたんだけど、それがニューヨークで当たってねー。今は私も社長の端くれなのよ」
「……………えっ」
柚子は度肝を抜かれて、もう一枚の名刺に目を向けた。
『N&Y 代表取締役 北野 奈緒子』
名刺にはそう記されていた。
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