明かされる真実

8/40

2391人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「なんか……すごいね………」 この名刺だけではどんな仕事なのか見当もつかず、他に言うべき言葉が見つからない。 奈緒子は優雅な仕草でカップに口を付け、大したことないというように首を振った。 「まあおかげで生活に随分余裕ができたし、数年前から何度も橘に柚子の養育費を払わせてほしいって申し出てたんだけど、頑なに拒否されてね」 「………………」 次から次へと知らなかった話を聞かされ、とうとう柚子は黙り込んだ。 奈緒子は忌ま忌ましげに長い髪を掻き上げる。 「私はただ柚子に不自由な思いをさせたくなかっただけなのに、男を作って出て行った女からなんか一銭も受け取る気はないって。……柚子は俺一人で立派に育ててみせるから…って」 「……………」 「男ってどうしてああプライド高いのかしら。別れた女房が自分より稼いでるのが許せなかったみたいね。……まあでも結局は……」 「─────やめてよ」 そこで柚子は静かに奈緒子の饒舌を止めた。 悲しげな瞳を向けられ、奈緒子はハッと口を噤む。 「お父さんのこと、悪く言わないで……」 柚子は膝の上でぎゅうっと拳を握り締めた。 「確かに生活は楽じゃなかったけど、お父さんは一生懸命やってくれてたわ」 「……………」 「遠足の日は朝早く起きてお弁当作ってくれたし、学校の行事もできるだけ参加してくれた。……私を置いて出て行った人に、お父さんのこと悪く言われたくない」 強い口調でそう言われ、奈緒子は悄然と俯いてしまった。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2391人が本棚に入れています
本棚に追加