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「そうよね……。私には何も偉そうに言う権利はないわね」
「……………」
「でも……でもね」
奈緒子はハンカチを取り出し、そっと目頭を押さえた。
「橘が亡くなったってこの4月に報告を受けて、慌てて帰国したらあなたの行方がわからなくなっていて……。
調べたら橘の残した三千万もの借金背負ったっていうじゃないの。
大学に聞いたら休学してるって言うし、あなたの住んでたアパートを調べて行ったら、今は留学に行ってるはずだけど来年には戻るはずだとか、全く要領を得なくて……。
しかも借金をしていた所に聞いたら、ある日突然三千万のキャッシュを持って返しに来たって言うし、もう何がなんだかわからなくて……。
もうてっきり外国に売り飛ばされたのかと……。
橘さえつまらない意地を張らずに私からお金を受け取っていたら、あなたもそんな目に合わなかったんじゃないかって……」
さめざめとそう言い、奈緒子はハンカチで顔を覆った。
そんな奈緒子の姿を見て柚子は溜飲を下げる。
父が亡くなったと聞き、ありとあらゆる手を尽くして自分を探そうとしてくれたことは素直に嬉しかった。
「ありがとう、心配してくれて……でも私は大丈夫だから」
「……………」
奈緒子は涙を拭きながら顔を上げる。
それを見た柚子は苦笑した。
相変わらず、感情の起伏の激しい人だ。
そう思うと不思議と懐かしさを覚えた。
「でもお母さん、どうしてあのマンションにいたの? 今はニューヨークに住んでるんでしょ?」
話題を変えるように問うと、奈緒子は少し笑顔を見せた。
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