第十三章:嵐の前触れ、明かされる真実

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ここは土方歳三の部屋。 静かな空間に、カサリと紙が擦れ合う音だけが響いた。 「………土方さん」 手に持つ書状に目を通した沖田は、おもむろに土方の名を呼んだ。 その呼び掛けに、土方は一拍置いてから答える。 「…なんだ?」 その部屋には、土方と沖田の他、近藤、そしてもう一人の副長である山南が座っていた。 山南敬助。下がった目尻が印象的な、見るからに優しそうな面影の男だ。しかしそんな彼も、今は気難しい表情で押し黙っている。 あの近藤さえも、どこか気落ちしているように見えた。 「ここに」と、沖田は広げた書状の文面を指差す。 「芹沢先生と新見先生の署名が無いのって………書き忘れ…とかじゃ、ないんですよね…?」 それは、新撰組となってからの新しい組織図、つまりはメンバー表だ。 今回変わったことといえば、一番隊から十番隊までの小隊が結成され、各隊には壬生浪士組の時の副長助勤だった者が隊長に任命された。 そして局長は、以前と変わらず近藤勇。 ここまでは分かる。しかし、同じく局長であった芹沢鴨と新見錦の名が、いくら探しても見当たらない。 つまり、これの意味するところは… 「総司…おめぇは勘がいい…。…察して、くれるよな?」 はっきりとしない物言いだったが、それで充分だった。 沖田はふぅっと溜め息をついて、広げた書状を再び折り畳んだ。 「他に誰が知ってるんですか?」 「…今この場にいる四人だけだ。くれぐれも内密にと、会津侯からの命だからな…」 「………華乃さんも?あの人にも内緒にしとくんですか?彼は芹沢先生の小姓ですよ?」 沖田がそう問えば、土方はバツが悪そうに舌打ちする。 「分かってる…。小倉は芹沢から外す予定だ。このことをアイツが知ったら、絶対に黙っちゃいねぇ筈だからな」 「…総司、小倉くんには決して悟らることがないようにな」 近藤も念を押す。 山南はというと、終始無言で、ただ辛そうに顔を歪めていた。 沖田は手の中にある書状を見つめ、無意識に唇を噛み締める。 (……華乃さん……怒るでしょうねぇ…) それとも悲しむ…か。 そう考えると、心臓がズキズキと軋んだ。 唇に小さな痛みが走ったかと思うと、口の中に鉄の味が広がる。 きっと彼女は憎むだろう 決して許さないだろう 芹沢を斬る、この私をー…‥  
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