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最初は何を言われたか分からなかった吉田だが、やっと桂の言葉の意味を理解すると、思わずプッと吹き出した。
「は…はは、何を言い出すかと思えば…。…ねぇ桂さん、嘘をつくならもっとマシなことを言ってよ。じゃないと…面白くなさすぎて、僕…貴方を殺しちゃいそうだ」
《新撰組》
それは最近耳にした名前だ。
会津藩の飼い犬、壬生浪士組。確かそいつらの、新しい組織名だった筈。
けど、奴らは…
「女人禁制…。なんでそこに華乃が入れる?馬鹿馬鹿しい…」
ありえないだろう。
しかし目の前の男は、とんでもないことを口走った。
「嘘ではない。華乃はあそこで男を偽ってるんだ」
「………」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。
「……それ、本当に?」
「ああ。なんなら晋作にも訊けばいい」
「………」
小さな目眩を感じた。
(……あの…馬鹿…!)
昔から突拍子のない行動を取る奴だったが、そこまでやるか!?
「なんで止めない…っ」
「止めたさ、晋作が。けど…あの子がすんなり言うことを聞くと思うか?」
「………ちっ」
無論、思わない。
彼女は筋金入りの頑固だ。
「まさに…狼の群れに子羊じゃないか…」
吉田のセリフに、桂は怪訝そうな表情をする。
「いや、どちらかというと…狼の群れに狩人…だ」
「はあ?」
「稔麿…一応訊いておくが、お前は華乃の実力をどう思ってる…?」
「あの子の実力…って…。そりゃあ…昔と変わらず弱いんじゃない?僕に一度も勝てなかったし」
「………」
次は桂が押し黙る番。
「稔麿…悪いことは言わない。…今の華乃にちょっかいは出すな。殺されるぞ」
「は…?」
吉田は、益々訳が分からないといった顔をした。
「お前は、華乃の四年の歳月を知らない。あの子はお前と別れた後、一心不乱に剣の腕を磨き…」
男顔負けの実力を身に付けた。
そう語る桂を、吉田は疑わしげに見た。
「へぇ…、それが本当だったら面白いだろうねぇ。華乃と会ったら手合わせ願おうかな」
「……会う…つもりなのか?」
「もちろん」
今すぐではないが、遠くない未来に会いに行く。
「華乃は新撰組には勿体ない」
彼女が同じ戦場にいるなら、もう躊躇はしない。
「……必ず…華乃は返してもらう…」
吉田は魅惑的な笑みを浮かべ、そう小さく呟いた。
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