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その日の朝、華乃はいつものように芹沢の部屋に向かうと、廊下の向かいの方から見慣れた女性がやってくるのが分かった。
「あ、おはようございます、お梅さん」
にっこり笑って挨拶をする華乃に、お梅も見惚れるぐらい綺麗な笑みを浮かべた。
「おはようございます…小倉さん…」
「もう起きてらっしゃったんですね」
「………あのぅ、既にお昼が近いのですが…」
本来ならば、「おはよう」より、「こんにちは」の方が正しいだろう。
「あはは、私、どうも朝が苦手で」
「ふふ」
くすくすと上品に笑うお梅に近づくと、華乃は彼女の顔を覗きみた。
「!?どうしま…「お梅さん、今、幸せですか?」
「え?」
「…菱屋を出て、ここに来たこと…悔いてはいませんか…?」
お梅が屯所に住むようになって、もう幾日は経つ。
もちろん、それは女人禁制の隊律に背く行為だが、彼女を庇う芹沢や華乃によって、周りからの糾弾は避けられていた。
「後悔だなんて……する筈もありません。すべてはわたしの意思です…」
お梅は強くそう言い切った。
彼女は、ある日突然屯所にやって来て、芹沢に自分が菱屋の妾だということを告げた。
自分は縛られていると、菱屋からは逃れられないと、けれど…
『…心ぐらいは…ここ…あなたの元に…置かせてくださいませ…』
そう告げた彼女を、芹沢は自分の部屋に住まわせることにした。
気持ちだけ告げるつもりだったお梅は驚き、始めは遠慮したのだが、頑固な芹沢が折れる筈もなく、それ以来彼女は、屯所の中で日々生活しているのだ。
「そう…ですか。それは安心しました。半ば私が強制したようなものでしたから…」
「そんな!とんでもない…っ、小倉さんには感謝してもしきれません!」
「…貴女は優しいですね。芹沢局長には勿体ないほどです」
「そんなことはない」と否定しながら、お梅は頬を真っ赤に染めた。
その様子に、華乃は胸が高鳴るのを感じた。
(可愛い…っ!可愛いすぎる…これが恋する女性か…)
自分も女ということをすっかり忘れてる。
(私もいつか…彼女みたいに誰かを想う日が来るのかな…)
例えその日が来ようとも、お梅のように慎ましくなれるとは欠片も思わないが。
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