第十四章:私は私らしく、華乃の決死の思い

5/16
7946人が本棚に入れています
本棚に追加
/202ページ
「……まずいですね…」 ポツリとそう呟いた斎藤に、土方は怪訝な表情をする。 「あ?何がだ?」 「…小倉もいないんです」 「ああ、アイツならお梅って女と一緒に町へ出てったぞ」 「それがまずいんです」 「はあ?」 だから何が『まずい』というのだ。 一向に彼の意図が分からず、頭に疑問符を浮かべる土方。すると斎藤は、ようやく理由を切り出した。 「新見殿は…小倉の命を狙ってるんですよ」 ガタタン! その瞬間、勢いよく席を立った沖田に、二人は面食らう。 「総司!?総司!待て…!」 土方が呼び止めるのも虚しく、彼は脱兎の如く部屋から飛び出していった。 「あ~くそっ、行っちまいやがった」 投げやりな様子で毒を吐く土方。 「申し訳ありません。軽率でした。まさか…沖田君があのような出方をとるとは…」 思っていなかったと、斎藤は申し訳なさそうに土方に詫びた。 「いや…君のせいじゃない。総司は時々、読めねぇ行動を取ることがあるからな…。それより、小倉が狙われてるってのはどういうことだ?」 「新見殿は、小倉を疎ましく思われてる様子。これまでも何度か小倉に、彼が接近しようとしているのも確認してます」 「……そう…か…芹沢…」 芹沢を改心させる小倉の存在が、新見には目障りだということか。 「ちっ、馬鹿が…。新見ごときが、あの小倉に敵うわけねぇだろ…」 なんせ、小倉は総司と対等にやりあえる腕だ。 「ええ、だからまずいんです」 「は?」 「小倉は…世間体を気にしませんゆえ…」 向かってくる敵には容赦しない。 それが例え、相手が上司であっても、だ。 「なるほど…確かにまずいな…」 新見には死んでもらう予定でいるが、それはあくまで暗殺。今、小倉に殺させる訳にはいかない。 「小倉が新見を斬ったとなれば、俺はアイツを裁かなきゃならねぇ」 「そう。ですから今まで自分は、二人を会わせないよう気を付けていたのですが、今回は油断しました…」 悔しそうに言った後、次いで斎藤は入り口に目をやる。 「ですが、沖田君が行かれたんなら心配ないでしょう」 すると土方は、ヒクリと顔を引きつらせた。 「ああ…斎藤くん…そのことだが…」 「はい?」 「…小倉が仲間にも容赦ねぇってやつ……」 実は… 「総司も…そうなんだ…」
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!