第十四章:私は私らしく、華乃の決死の思い

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「もう一度おっしゃって下さいます?誰が誰を殺すって?」 殺気を垂れ流しながら、うっすら妖笑を浮かべている華乃。 彼女の目の前には、細身の中年男、新見錦が立っていた。 かれこれ数十分前に、お梅と供に屯所を出た華乃だったが、人気のない道に入ると同時に新見から奇襲を受けたのだ。 『貴様らを殺す!』 そう言ってきた彼に、華乃はまずお梅を背に庇った。 「貴様ら…?貴様らと言いましたよね?貴方…まさか、お梅さんも狙ってるわけじゃあないですよね…?」 蛇に睨まれたカエルよろしく。 華乃のドスの効いた声音に怖じ気づいた新見は、完璧に固まってしまった。 「お…小倉さん…」 おろおろしながら側に寄ろうとするお梅を、華乃は手でスッと制する。 「さがってて下さい。危ないですから」 「で、でも…」 「いいから早く!」 華乃の苛立ちを感じたお梅は、やや驚いた後、大人しく道の脇にさがった。 (言い過ぎたかな…) と、華乃は少し後悔する。 けど、仕方がなかった。新見は抜き身の剣を持っている。下手したら、彼女にも被害が及ぶかもしれない。 (ったく、どうしてよりにもよって…) 彼女と一緒にいる時に限って現れるのだ。実に迷惑極まりない。しかも… (お梅さんも狙うなんて…) 極刑に値する行為だ。 「まだ私だけなら見逃してあげようと思いましたが…気が変わりました。貴方には今ここで……死んでもらいます」 お梅に手を出す前に。 「きっさまぁぁああ!!」 新見は怒りによって身体の硬直を解くと、そのまま華乃に斬りかかった。 しかし華乃は、新見の剣を余裕でかわし、すかさず足払いをかけて彼を転ばせる。 そして、仰向けになった新見の胸を足で踏み押さえると、彼の頭上高くに己の懐刀を垂直に翳した。 「!?ひ…っ、やめっ!やめてくれ…!」 その先の行動を察した新見は、顔面蒼白で慌てる。しかし、華乃は無情にも手を離した。 ヒュッ… ―‥グサ 「~~~~~っ!?」 新見の顔が、恐怖のあまり醜く歪む。 華乃が落とした懐刀は、新見の頬皮一枚裂いて地面へと突き刺さっていた。 「あれ?外しちゃいましたか?おっかしいですねぇ…じゃあ、もう一度」 にっこりと笑いながら残酷なことを言う華乃。 無論、狙いを外したのはわざとだ。より相手の恐怖心を煽るために。
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