第十四章:私は私らしく、華乃の決死の思い

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昔から華乃は、この夕顔と護身用の懐刀を得物して振るっていた。が、壬生浪士組に入ると決めた時、夕顔だけは高杉に預かってもらったのだ。 理由は単純。初対面で警戒されない為と、敵に手の内を見せない為だ。 ゆえに、あそこで懐刀以外の刀を振るったのは一度きり、沖田の脇差しを拝借した時だけだった。 「奴らを斬るのか?親しい奴も出来たんじゃねぇのかよ?」 華乃は情に流されやすい。 だから、お梅も芹沢も見捨てられないのだ。例え新撰組を敵に回すと分かっていても…。 高杉が心配そうに問えば、華乃はただ「分からない」とだけ答えた。 「斬る…かもしれないし、斬らなくて済むかもしれない…。場合によっては、ですよ。…まぁ、話して分かる相手ならいいんですが…」 多分無理でしょうね。と、華乃は困ったように苦笑する。 「さてと、私も夜を待ちましょうか」 「夜?今じゃなくてか?」 「暗殺は夜が基本でしょう。新見も死んだ今、迂濶に動けない筈です。夜になったら屯所を見張ります」 「…き、基本なのか。…けどよ、別に話し合うなら今でもいいんじゃねぇのか?」 「今ノコノコ現れたら私、新撰組総勢して捕まっちゃいますよ。あそこ、油断ならないうえに腹黒い人が居てですね。きっと今頃、目くじらたてて私を捜してるでしょうね」 沖田が新見暗殺の詳細を『彼』に話していれば、必ず私が邪魔に入ると考える筈だ。 つまり、芹沢を殺る前に私の捕獲を優先するだろう。 「…へぇ、華乃がそこまで警戒する奴がいるなんてなぁ。今後の参考に覚えておくとするぜ。誰だ、そいつ?」 あくまで口調は落ち着いている高杉だったが、彼の醸し出す雰囲気が変わったのが分かる。 やはり彼は攘夷志士。警戒すべき相手だと知り、その情報を欲した。 「新撰組局長、近藤勇。です」 「…………もう一度」 「だから近藤勇ですって」 何度言わせるつもりだと、華乃はあからさまに不機嫌な顔になる。 「…いや…いやいや…ちょっと待てよ。近藤?巷(ちまた)じゃあ奴、穏和で優しい男って聞いてるぞ?」 「ああ、ソレ、演技ですから」 「………」 「私も最初は騙されちゃったんですよね。今思い出しても悔しいです」 高杉は、軽く頭痛のし始めた頭を手で押さた。 (…なるほど。手強いな) あらゆる意味で。 そうして華乃達は、とりあえず夜を待つことにしたのだった。
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