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「明日、知人の結婚式でアメリカに行くんだ」
無造作に隣に腰掛け、突然口を開いた俺に、彼女はただ小さく頷いて見せる。
反応なんてどうでもよかった。
ただ、そこに『聞き手』がいてくれれば、それでいい。
「高校の頃から、ずっと好きだった女の結婚式だ。
もう、とっくに諦めていたはずなのに、結婚と聞くと…
どうしてだか、そうすんなりと切り替えができない。
俺としたことが、彼女のことだけは、どうすることもできなかった。
後にも先にも、あれほど真剣になった女は彼女だけだというのに……」
空を仰ぎ、ゆっくり目を閉じると、そこには太陽のような恵の笑顔が鮮やかに映し出される。
愛してた――
俺の手で幸せにしたいとどれだけ願ったことか。
もう久しく忘れかけていた古い傷跡が、再び鈍く痛みだすのを感じていた。
「そんな思いをして、どうして、結婚式に行くの?」
そんな俺に、彼女は当然とも言うべき疑問を口にする。
「彼女の幸せを見届ける義務が、俺にはあるからだ」
高校時代から、康祐の恵に対する気持ちには薄々気づいていた。
もともと女に対して愛想のないやつだが、恵に対しては極端に態度が悪い。
シャイなあいつを邪魔するのに、無理に他の女とくっつけたこともある。
二人が惹かれあうことを無意識に恐れていたのかもしれない。
「友情と恋の両方を失ったバカな男だ…」
年末に小西と揃って帰国した恵に、そのうち自分もいい人を紹介すると言った。
正直、強がりだった。
あるいは、自分なりに、この恋の落とし所を決めようとしたのかもしれない。
俺がそう言った時の、恵の嬉しそうな笑顔が忘れられない。
初めて彼女の笑顔を残酷だと感じた。
恵が悪いわけではない。
いつまでも本心をさらさず、彼女の前ではいつだって好青年を気取ってきた自分へのバツだ。
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