第1話

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「明日、知人の結婚式でアメリカに行くんだ」 無造作に隣に腰掛け、突然口を開いた俺に、彼女はただ小さく頷いて見せる。 反応なんてどうでもよかった。 ただ、そこに『聞き手』がいてくれれば、それでいい。 「高校の頃から、ずっと好きだった女の結婚式だ。 もう、とっくに諦めていたはずなのに、結婚と聞くと… どうしてだか、そうすんなりと切り替えができない。 俺としたことが、彼女のことだけは、どうすることもできなかった。 後にも先にも、あれほど真剣になった女は彼女だけだというのに……」 空を仰ぎ、ゆっくり目を閉じると、そこには太陽のような恵の笑顔が鮮やかに映し出される。 愛してた―― 俺の手で幸せにしたいとどれだけ願ったことか。 もう久しく忘れかけていた古い傷跡が、再び鈍く痛みだすのを感じていた。 「そんな思いをして、どうして、結婚式に行くの?」 そんな俺に、彼女は当然とも言うべき疑問を口にする。 「彼女の幸せを見届ける義務が、俺にはあるからだ」 高校時代から、康祐の恵に対する気持ちには薄々気づいていた。 もともと女に対して愛想のないやつだが、恵に対しては極端に態度が悪い。 シャイなあいつを邪魔するのに、無理に他の女とくっつけたこともある。 二人が惹かれあうことを無意識に恐れていたのかもしれない。 「友情と恋の両方を失ったバカな男だ…」 年末に小西と揃って帰国した恵に、そのうち自分もいい人を紹介すると言った。 正直、強がりだった。 あるいは、自分なりに、この恋の落とし所を決めようとしたのかもしれない。 俺がそう言った時の、恵の嬉しそうな笑顔が忘れられない。 初めて彼女の笑顔を残酷だと感じた。 恵が悪いわけではない。 いつまでも本心をさらさず、彼女の前ではいつだって好青年を気取ってきた自分へのバツだ。
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