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翌朝、俺は恵の結婚式へ出席するために、ボストン行きの飛行機の中にいた。
ごく近い親戚と、気心の知れた数名の友人だけを招待しているそうで、俺は野球部を代表して行くことになった。
高校時代、恵は誰もが認めるマドンナだった。
控えめな彼女にその自覚はなかっただろうが、部の連中のほとんどが彼女を一度は好きになったことがあるに違いない。
高嶺の花と諦める奴も中にはいただろうが、俺は主将という立場だけでなく、彼女に最も近い位置にいると自負していた。
だが、彼女に思われているという予感はなかった。
伊達に恋愛を数多くこなしてきたわけじゃない。
好きな相手が自分に気のないことは、すぐにわかる。
だが、他の女ならともなく、恵を自分の方へ向かせる手立てもわからなかった。
純白のウェディングドレスを着て、愛する男の横で微笑む彼女は、言葉にならないほど美しかった。
康祐を思いながらも、その気持ちを伝えられないまま彼を亡くし、彼女もまた、叶わぬ恋を長く引きずって来た一人だ。
交差し合うそれぞれの想いが、何度ももつれ合い、今ゆっくりとほぐれ始める。
小西は恵を幸せにするだろう。
誠実な二人は手を取り合い、支え合って生きていくに違いない。
もしも康祐が生きていたら、今彼女の横で微笑んでいたのは、あいつだったのだろうか。
「愚問だな…」
俺はゆっくりと首を横に振る。
未来は誰にもわからない。
たとえ康祐が生きていたとしても、恵と小西が結ばれる運命があったかもしれない。
だが、どんなに糸がもつれあおうと、俺と恵を結びつける線はなかったのだと思い知らされる。
小西と恵から、式の翌日にボストン観光を提案されたが、俺はスクールを休めないと詫びを入れ帰国の途についた。
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