48人が本棚に入れています
本棚に追加
成田空港へ到着後、俺はその足でスクールへ直行した。
「米倉さん、今日帰国予定じゃなかったですか?」
驚く相葉コーチの肩をポンと叩き、俺は教官室のロッカーに飛び込む。
なぜだか、無償に野球がやりたかった。
ロッカーの中にお守りのようにしまってある古いグローブをそっと取り出す。
それは、中学に入学してすぐに新調したもので、高校卒業までを共にした思い出のグローブだ。
恵の結婚式を終え、喪失感と共に湧きあげてきたのは、ひたすら何かに打ち込みたい焦燥感だった。
「もう俺には野球しかないな」
古いグローブを指にはめ、俺は自嘲気味に笑う。
グラウンドに出ると、ちょうと幼児クラスが始まるところだった。
今日は監督不在と通知していながら、俺が顔を出したことに父兄や子供たちは驚いた顔をしている。
それでも、笑顔で駆け寄ってくれる子供たちが嬉しかった。
その中には、驚くべき人物の顔があった。
「航平!」
俺は夢中で彼の肩に手を置き、2カ月ぶりに見るその笑顔に心の底から安堵する。
彼の後ろには祖父の姿があり、何度も頭を下げる姿が印象的だった。
「風邪は治ったのか?」
色の白い彼の顔を覗き込むようにしてそう尋ねると、航平は嬉しそうにコクンと頷く。
「そうか。
じゃあ、これからも一緒に頑張ろうな」
最初のコメントを投稿しよう!