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アメリカから帰国後、俺は今の心境を真っ先に話したい人がいることに気がついた。
航平がスクールに来るようになった今、彼の自宅を訪ねてあの河原に行く必要はなくなってしまったが、俺は素知らぬふりをして自転車にまたがる。
彼女と顔を合わせるのは、大抵18時頃だ。
その辺りに職場か自宅があるのだろうか。
茜色に染まり始めた空の下、俺は河べりを自転車を走らせ、行き交う人に視線を送る。
ジョギングをする人、犬の散歩をする人、楽しげに肩を並べて歩くカップル……
学生時代に見た風景と変わりはないのだろうが、希望に満ちていたあの頃に比べると、すべてに生活臭を感じ、何の情緒も湧いてこない。
いや、違う。
野球に打ち込み、仲間と語らい、身を焦がすような恋をしていたからこそ感じた匂いや感動が、今の空洞のような心には何も響かないだけだ。
社会人野球で活躍していた頃は、それなりの充足感もあった。
だが、高校時代と違い、故障の多い野球人生だった。
自分の中に確固たる指針を持てずにいたからかもしれない。
将来の自分を思い描くことなく、ただ野球に没頭していた。
それしかなかった。
俺は、どこに向かって進んでいるのだろう――
その日、夜遅くまで河原で寝転んでいたが、結局彼女は現れなかった。
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