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何も言えなかった。
不覚にも、俺は泣いていたのだ。
周りが見えていないのは、他でもない。俺だったのかもしれない。
主将として、チームを引っ張ってきたつもりだった。
だが、そうではなかったのかもしれない。
みんな、俺に引っ張られるフリをしてくれていたのではないか。
「木山…明日飲もうぜ」
そんな申し出に、明るく快諾してくれた木山と電話を終え、俺は再びベッドに身を横たえる。
明日、木山にすべて話してしまおうか。
一瞬そうも考えたが、すぐにその想いは打ち消された。
話せば、あいつも同じように苦しむだけだ。
部員が、俺の嘘をどこまで信じていたのかは知らないが、康祐の態度に不信感を抱いたことは間違いない。
そして、誰もその真実を彼に確かめようとはしなかった。
誰も、康祐を止めることはできなかった。
いや、真実に気づき、止めることができたとすれば、それは俺を置いて他にいない。
ともかく――
俺たちは…
俺は、彼の心の叫びに耳を貸すことができなかったんだ。
翌日、スクールを終えた俺は、木山との待ち合わせまでまだ時間があったので、再びあの河原に自転車を走らせたが、彼女は姿を見せなかった。
「さえらが、おまえと連絡取りたいって言ってたぜ」
最近すっかり常連となった駅前のバーで飲みながら、木山が思い出したように言う。
「へぇ…」
そう言えば、あそこであいつにも一度会ってたな。
高校時代より、化粧が何層にも厚くなった彼女の顔が一瞬頭をよぎった。
「メルアド教えて。
そのうち連絡してみる」
わざと気だるそうに答えた俺は、横顔で木山の冷やかな視線を痛いほど感じながらも、気づかないふりをする。
「おまえ、いい加減にしろよな。
自棄になっても報われんぞ」
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