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数日後、航平の家を訪れた後に立ち寄った河原で、俺はまた彼女と会った。
俺の存在に気づく様子も感じられないほど、ただじっと川面を見つめる彼女の表情は暗く沈んでいる。
「――あっ…」
俺が黙って隣に腰を下ろすと、やっと彼女は顔を上げた。
「久しぶり」
と言うのもおかしな気がするが、思わずそう口にしていた。
彼女は黙って小さく頷く。
その横顔は青白く、初めて会った時より痩せて見えた。
そのまま俺たちは何も言わず、しばらくの間、ただ川面を眺めていた。
「人は死んだらどこへ行くのかな?」
何気なく呟いた俺の言葉に、彼女はハッとしたようにこちらを見る。
辺りはもう顔の表情がすぐには読み取れないほど、うす暗くなっていた。
「きっと…空に帰るんだと思うわ」
彼女の返答が、俺の心を小さく揺らす。
「…あの空の向こうに?」
俺が紺色の空を仰ぐと、彼女は黙って首を横に振った。
「その人を思う誰かの空の上に」
彼女の言葉は、グチャグチャな俺の心を静かにざわめかせる。
その人を思う誰かの空の上にいる――
だとすれば、康祐は誰の空の上にいるのだろう?
あいつは、今でも俺たちを見守ってくれているのだろうか。
あいつは、無事に空へ帰れたのだろうか?
頬に涙が伝う。
いつもクールなふりをして涙もろい俺は、あいつと出会ってから、一生分の涙を使い果たした気がする。
俺の涙は、康祐に届いているのだろうか。
その日以来、俺はまた度々彼女と顔を合わせるようになった。
初めて会った時に、橋から身を投げ出すのではと心配になるほど打ちひしがれていた彼女だが、その傷はまだ癒えないようで、いつも思いつめたような顔をしている。
一度もその理由を聞いたことはない。
どこかその質問を拒絶するかのような彼女の態度に、口に出すのを憚られた。
「米っち?!」
この日も、夕方の河原で二人並んで座っているところへ、頭の上から聞き覚えのある女の素っ頓狂な声が響いた。
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