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数日後、俺は航平の母である春菜の紹介で、中央南病院の山下医師を訪ねていた。
春菜から聞いた話で、この医師が康祐の治療に深く関わっていたのではないかという思いを強めた俺は、どうしても彼に会って話がしたい衝動に駆られた。
事前に面会の申し込みをすると、山下医師は割とすんなり快諾してくれ、その電話で指定された日時に俺は病院を訪れた。
中学生の頃、自分の前で初めて倒れた康祐が運ばれたのもこの病院だったことから、俺は最初に受けた確信をますます強める。
受付で名前を告げると、俺は彼の待つ診察室へ通された。
「はじめまして、米倉です。
突然の電話、大変失礼しました」
ノックに応える声を耳にした途端、俺は心臓が締め付けられるような緊張感に支配された。
「やあ、よく来てくれたね。
キミの話は康祐から聞いていたよ」
電話では、航平の母から聞いた話を面会の理由として、掻い摘んで説明しただけだったが、彼はまるで何もかも承知しているかのような笑顔で頷いている。
診察イスを勧められ、腰を下ろしたところで、彼は自分が康祐が産まれた時からの主治医であったと話してくれた。
「康祐は、本当に君を信頼していた。
君がいてくれたから、あいつが掲げた生きるための道を、貫き通すことができたと言っていたよ」
母親でもなく、彼の傍で病気と真っ向から闘った一人の人間の姿がそこにはあった。
この人の良さそうな医師が、康祐をどれだけ支えてくれていたかは、聞かなくてもわかる。
「俺は…
あいつの…康祐の病気を、ちゃんとわかってはいなかったんです。
野球を続けても、体には問題ないと言う彼の言葉を信じていて…
いや、おかしいと思うことはあったのに、俺は気づかないふりをしていなのかもしれない。
物わかりのいい奴を演じて、俺は康祐と腹を割って話すことができなかった。
そんな俺が、命を削って野球をやるあいつを止めてやれれば、あいつは今でも…」
射抜くような山下の視線にたじろぎ、心を見透かされているような錯覚を憶えた俺は、いつの間にか胸の内は赤裸々に口にし始めていた。
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