第1話

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最後の晩、あいつはここで、君が座っているその椅子に座って、こう言ったんだ。 『野球は勝敗がすべてではなかった。だから、俺は負けたわけじゃない。 でも、先生は勝てよ。 奇跡を信じる医者も悪くない。 先生と親と親友のお陰で、最後まで闘えた。思い残すことはない。 この恩は、次世で必ず返す』 …そう言って、笑ったよ」 胸が張り裂けそうだった。 それがあいつの生き方なのか? そんな風に、おまえは割り切ることができるのか――? 何かを言いかけた俺を遮るように、山下は言葉を続ける。 「君が初めて康祐の病気を知った時から、彼が死ぬまでの時間は、奇跡だったんだ。 彼はとても生きて、野球をやれるような身体ではなかった。 命をすり減らしたのではない。 消えた命の炎を、必死で燃やしていたんだ。 医師である以上、非科学的な発言をしてはならない。 だが、俺は医学では解明できない奇跡を、あいつに見たんだ。 それは、彼を想う君や周りの人間たちが巻き起こしたものでもある。 君は、康祐に命の灯を与え、彼を導いたんだ。卑下する必要はどこにもない。 小西に宛てた手紙は、あいつが最後に見た夢の続きだ。 次世で康祐が紡ぐはずの第二章だ。 あいつは、自分の人生の幕引きを、誰よりも知っていたよ」
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