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病院からの帰り道、高台から夕暮れの空を見上げると、高校時代の想い出が走馬灯のように俺の頭を駆け巡った。
練習後、自転車を走らせる俺たちは、吸いこまれそうな夜空と心地よい疲労感で、いつだって気持ちは浮足立っていた。
木山がいた。
恵がいた。
康祐がいた。
思えば、俺を含め、あそこにいた3人全員が恵に思いを寄せいていたのだ。
「フッ…」
その恵だけが、先日、長い長い恋をようやく終焉へと導いてくれた小西と結婚した。
薄々感づいてはいたが、康祐と恵は、高校時代からずっと思い合っていたのだろう。
そのことを、二人が気づいていたのかはわからないが、純情な二人はその気持ちを伝え合う術を知らなかったに違いない。
俺なら、そんな二人を取り持ってやることができたのに…
その俺が恵に思いを寄せていたのだから、仕方ない。
俺が、もう少し大人だったら、康祐は生きているうちに恵と結ばれていたかもしれない。
だが、二人には必ず来る別れがあった。
もしかしたら、康祐は恵の気持ちを知りながら、彼女を拒絶したのではないか。
それが、彼女を傷つけない唯一の方法だと信じて…
それこそ、あいつが彼女に示すことのできた、たった一つの愛の証しだったのだろう。
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