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もしも、康祐の想いを知り、一時でも二人が結ばれていたとすれば、もっと違う未来があったのかもしれない。
あの聡明な恵のことだ。
康祐との思い出を胸に一人で生きていく道を頑なに選んでいたかもしれない。
…だからこそ、康祐は最後まで恵に思いを伝えなかったのだろう。
あいつの思い通り、恵は小西という素晴らしい男と共に生きて行く道を選ぶことができた。
「どちらにせよ、彼女が俺を選ぶことはなかったな…」
自嘲気味に笑いながらも、二人が結ばれる一瞬を、親友として見届けられなかったことを悔やんでいる自分がいた。
ふと、俺は携帯を取り出しアドレスを辿って耳に当てる。
「おう」
同じ女性を愛し、今も一人で現実を生きる友の声が心地よく耳に響く。
「よう、出て来いよ。
今夜は飲もうぜ」
まだ仕事中だとブツクサ文句を言いながらも、木山は必ず待ち合わせの店に姿を現すだろう。
今夜は、洗いざらいぶちまけて、素の俺であいつと杯を交わせばいい。
今は亡き友と、失った恋を肴に…
来る時は長く感じた病院までの急こう配の坂が、今はやけに短く感じる。
山下に会って良かった。
俺はただ自分を責めることで、やるせない今の思いの行き場を捜していただけだと知った。
山下と引き合わせてくれた春菜との出会いも、また運命なのだろう。
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