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「ありがとうございました!!」
黒い瞳が一斉に俺を見て、くるみ割り人形みたいなお辞儀をしたかと思うと、弾けるように駆け出していく。
「監督、彼女いないって本当!?」
「大人のくせに、カッコ悪~」
さっきまでの真剣な眼差しはどこへ行ったのか。
子供の切り替えの早さには驚かされる。
「わかってないな。
彼女がいれば大人ってもんじゃない」
生意気な口は聞くが、まだまだ無邪気で可愛らしい年代だ。
少年たちの若葉みたいな笑顔が、今の俺には心地よく、古い傷跡を優しく撫でてくれている。
米倉靖司、30歳。
小学3年の時に野球を始めてから、俺は一度もグラブを離したことはない。
プロになるほどの心意気はないが、それでもずっと地道に野球を続けてきた。
昨年、社会人チームを引退した俺は現在、知り合いの元プロ野球選手が経営する少年野球チームの監督を務めている。
あいつがそのきっかけを作った気もするが、俺自身ずっと指導者への道を目指していたのかもしれないと最近思う。
――どんな形であれ、野球を続ける
10数年前、俺はそいつとそんな話をした。
俺の中で『親友』と呼べるただ一人の人間。
康祐――
心の中で何度となく呼んできた名前。
俺は、今でも野球を続けているぞ――
高校卒業直前に逝った彼を、俺は今でも胸に抱き続けている。
ある後悔と共に。
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