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「そうか…
康祐が、おまえにそんなことを頼んでいたなんてな…」
いつものバーで肩を並べ、俺は中学からの康祐とのやり取りを、洗いざらい木山に話して聞かせた。
恵とのことも、小西から見せられた手紙のことも、春菜のことも、山下のことも…
堰を切ったようにしゃべり続ける俺の横で、木山はずっと黙って耳を傾けている。
「おまえ、よく今まで一人で抱えていたな。
小西もそうだけど、ホント大した男だよ。
康祐が二人に託した理由がわかる気がする」
てっきり罵りの言葉が返ってくるとばかり思っていた木山の意外なひと言に、俺は逆に彼の大きさを思い知らせる気がした。
「もし、チームメイトじゃなかったら、めぐちゃんもおまえを選んでいたかもな。
彼女なりに、康祐と自分を知りすぎるおまえになびくことはできなかったんだろうよ」
それはどうだかな。
俺は心の中で呟きながらも、木山の気遣いが内心嬉しかった。
小西はあれだけの成功をおさめながらも、人間としても素晴らしい男だ。
恵が惹かれてるのも無理はない。
「おまえは、結婚する気ねえの?」
学生時代から、どこでもムードメーカー的な存在で、人好きのする木山だが、女性関係の話はあまり聞いたことがない。
「いきなり、フルのかよ。
…俺は、なーんか、いつも続かないんだよなぁ」
そう言って木山は、残り数ミリのハイボールをグイッと飲み干し、マスターにお代りを要求した。
「おまえも、後遺症か?」
負けじとグラスを空けた俺は、マスターに手を上げながら尋ねた。
「…そうかもな」
高校時代の強烈な出来事のせいで、今も俺たちの時間は止まったままなのかもしれない。
恵が、小西が前に進んだように、俺たちも新たな一歩を踏み出さなければならない時が来たのだ。
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