48人が本棚に入れています
本棚に追加
その晩遅く、同級生の木山と飲んでいた俺は、見慣れない番号からの着信に気づいた。
「新しい女?
なんか靖司、中坊の頃に戻ったみたいな」
木山の言う通り、俺はどういうわけか最近、女性との付き合い方が奔放になっていた。
恵が結婚すると聞き、いよいよ俺の恋は終わったと思い知らされ、自暴自棄になっているのか?
俺としたことが、なんてザマだ。
だが、どうしようもなく開いてしまった心の隙間を埋める方法が他に思い付かない。
「バカ、これはたぶん生徒の保護者からだ」
木山を小突きながら席を立ち、通話ボタンを押しながら店の外に出る。
「もしもし……?
斉木ですが、先程お電話いただいたようで……」
声の感じからして、航平の母親だろう。
自分からかけていながら話し手で誰だかわからない様子で、声に不安感が漂っている。
思えば、留守番電話に切り替わらなかったので、伝言を残すことができなかったのだ。
「失礼いたしました。
ベースボールアカデミーの米倉と申します。
航平君が最近スクールを欠席されているので、様子をうかがいたくてお電話させて頂きました」
出来るだけ丁重にそう告げると、一瞬電話口の母親があっと息を飲むのがわかった。
「大変申し訳ありませんでした!
航平は…その、長く風邪をこじらせておりまして、もう少し回復しましたら、またスクールに通わせたいと思っておりますので…」
どうにも歯切れ悪い母親も対応に、俺は一瞬巷でよく耳にする『虐待』のふた文字が頭を掠める。
だが、すぐに航平の母親に対してひどく失礼なことを想像している自分に気づき頭は振った。
「航平くんが来るのを待っていますので、早く元気になるように彼に伝えて下さい」
俺はそれだけ言うと、恐縮する彼女に電話をくれた礼を言って電話を切った。
最初のコメントを投稿しよう!