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その後も航平は、スクールを欠席したままだった。
様子を聞こうと電話をかけても、母親は言葉少なに風邪が治らないと言うだけだ。
ここは義務教育の学校ではなく、お金を出して通うスクールだとわかっていても、航平のことが気になって仕方ない俺は、意を決して自宅を訪ねることにした。
登録情報を頼りに自転車を走らせると、そこが実家のすぐ近所であることに驚く。
指導者を目指すと決めた時、俺は地元に戻り、アパートを借りた。
実家の呉服屋は、父が亡くなって以来母が店主として切り盛りしていたが、今は隠居して姉夫婦が跡を継いでいる。
姉とはもともと仲が良かったが、婿に入ってくれた義兄への遠慮から、何となく実家に寄りつくこともなり、この辺りに来るのもずいぶん久しぶりだ。
「留守か……」
アパートのチャイムを鳴らしても、何の反応もない。
風邪をこじらせて入院でもしているのだろうか?
しばらく様子をみたが、室内に人がいる気配がまったくないことに諦めた俺は階段を下りて自転車にまたがった。
そのまま真っ直ぐ帰る気にもなれず、何となく河原に出てみる。
幼い頃、姉や友達とよく遊んだ場所だ。
中学時代は、野球部の連中と寝そべって、暗くなるまで語り合ったものだ。
自転車を降りて河原に寝そべると、目の前に広がる灰色の冬の空は、どこまで高く感じられた。
高校時代、登下校でこの河原沿いを、毎日自転車を走らせたことが懐かしく思い出される。
ふいに、何故だか俺は泣きたい気持ちになった。
そんな中、河を横切る大橋に女の人影があることに気づく。
手すりに寄りかかるようにして、彼女は何を見ているのだろうか。
「ねえ……?もしかして、米倉くん?」
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