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「何か、心配ごとでも…?」
俺は何を聞いているのだろう。
思わず口にした言葉に、自分が信じられなかった。
聞いた本人が驚いているくらいだ。
彼女も目を見開いて、俺に向き直った。
しばらくの沈黙の後、彼女は再び橋の手すりに腕を置き、
一つ息をついて空を仰いだ。
「……嘘をついたんです。
一番、愛する人に」
やがて、彼女はか細い声で苦しそうに、そう呟いた。
いつの間にか、俺も彼女と肩を並べて手すりに寄りかかり、暮れかけた冬空を眺めていた。
「…どんな嘘を?」
その問いには応えられないと言うように、彼女は小さく首を横に振る。
無理もない。
俺も特別その先を知ろうとは思わなかった。
ただ、彼女の抱えているものが、脳裏に布石としてこびりつく記憶を呼び覚ますような、そんな錯覚を覚えた。
「嘘は必ずしも、その相手を陥れるためのものじゃない。
…俺は昔、大事な人間の嘘を見抜けずに、最終的にそいつを死に追いやったことがある」
思いがけず口走った言葉に、俺の中で何かが弾けた。
やっと気づいた。
俺は、ずっと忘れられないのだ。
この12年間、あの時の後悔と懺悔の想いをずっと抱えて生きてきた。
俺がするべきことは、本当は何だったのか。
時間が戻せるのなら、もう一度あの頃に戻って、亡き友に言ってやりたい。
「一人で闘うな。
未来を生きよう」、と。
だが、もうそれは叶わない。
俺はあいつの心の奥底でくすぶる『希望』に、気づいてやることができなかった。
「あなたは、その相手の方が必死でついた嘘に、ただ必死で答えただけなんじゃないんですか?」
その時、隣でふと漏らした彼女の言葉が、俺を昔の記憶から引きずり戻した。
「なんで?
キミにそんなことがわかるの?」
彼女の言葉に反発しながらも、俺はどこかでその言葉を反芻している自分に気づく。
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