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それを聞いた柚子はがっくりと肩を落とした。
「………そんなぁ。せっかく三人分作ったのに」
「知らねーよ、俺のせいじゃねーし」
証はスーツを脱ぎながら素っ気なくそう言った。
柚子はしょんぼりとうなだれる。
「俺、先に風呂入るから」
「あ、うん」
脱いだ上着を受け取りながら、柚子は力なく返事を返した。
想像以上にがっかりしている自分がいる。
(………久しぶりに会いたかったな。この前のお礼も言いたかったのに……)
溜息をつきながら、柚子はリビングから厚い雲に覆われた空を見上げた。
キッチンに戻った柚子は、まだ焼く前だったグラタンをぼんやりと見つめた。
『グラタンか、いいですね』
そう言って笑った五十嵐の顔が浮かぶ。
(やっと今日食べて貰えると思ったのに……)
悶々とした気分を払拭しようと頭を振り、柚子は意を決して浴室へ向かった。
磨りガラスの前で中の様子を窺う。
証は湯舟に浸かっているようだった。
「………あの、証」
「……………」
浴室の中でパシャンと湯の音が鳴った。
「なんだよ、一緒に入りてーのか」
「違うっ! ……ちょっと出掛けたいんだけど」
「は? 今から? どこに」
「せっかく作ったから、五十嵐さんにご飯届けてあげようと思って」
「……………」
しばらくの沈黙の後、はぁーっという大きな溜息が返ってきた。
「………別に行くのは構わねーけどさ」
「うん」
「知らねーぞ、女が出てきても」
「…………え」
柚子は驚いてドアに身を寄せる。
「ど、どういうこと?」
「クリスマスイブにガス屋が来るなんて嘘かもしんねーだろ。ホントのところは女と過ごすかもってこと」
「……………」
ドキッと何故か柚子の胸が大きく弾んだ。
「………そ、そうなの? 五十嵐さん、彼女できたの?」
「それはわかんねーけど、なんかあいつ今日ちょっと様子おかしかったし。フラれたのなんかもう随分前の話だし、あれで結構モテるからなー」
「……………」
「彼女できたなんていちいち俺に報告する義務もねーし、気を使って嘘ついてんのかもしれねーだろ」
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