聖夜に降る雪

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柚子はすっかり言葉を無くしてしまった。 そんな考えには露ほども思い至らなかった。 のろのろと力なく立ち上がる。 そうして無言で浴室を後にした。 (………そう……なのかな) 取り敢えずタッパに料理を詰めながら、柚子は五十嵐の顔を思い浮かべた。 背が高くて、カッコよくて、大人で、超が付く程優しくて……。 (確かに……彼女いないほうが不思議かも……) 昔、刺激がないと言われてフラれたトラウマさえなければ、五十嵐だってもっと恋愛に積極的だったかもしれない。 数年経った今が、まさに気持ちの切り替え時なのかもしれなかった。 五十嵐には素敵な恋愛をしてほしいとは思っている。 ………だが、この割り切れなさは何なのだろう。 (大好きなお兄ちゃんを取られちゃう、みたいな感じなのかな。……兄弟いる人ってみんな、こんな思いするのかも……) だがそれは柚子の一方的な独占欲に過ぎず、五十嵐にしてみれば迷惑この上ない。 柚子はふっと苦笑した。 (証との契約が終わっても会おうって言ってくれたけど……彼女できたんじゃそれも無理だな) あの台詞さえ、五十嵐の優しさだったのかもしれない。 あんな素敵な人、周りがほっとかなくて当たり前だ。 もしそうならちゃんと心から祝福しないと……。 (取り敢えずせっかくだから持って行って……もし彼女がいるようならそのまま帰って来よう……) 料理を詰めたタッパを紙袋に入れ、柚子は家を後にした。  
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