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仕事始めということで、残業をしている者は誰もいなかった。
入口で守衛に軽い挨拶をしてから、二人は社長室へ足を向ける。
部屋の電気を点けてから目が明るさに慣れるまで、少し時間を要した。
証はドサッとソファーに身を投げる。
そうして自販機で買った水を半分ほど飲み干した。
そんな証を立ったまま見つめている五十嵐に、証は向かいのソファーを指し示した。
「座れよ」
「…………はい」
五十嵐は頷いておもむろに証の向かいに腰を下ろした。
証はペットボトルをテーブルに置く。
「………で、話って?」
「………………」
五十嵐の顔にサッと緊張が走った。
証は黙って五十嵐が話し出すのを待つ。
一拍の後、五十嵐はためらいがちに口を開いた。
「柚子さんのことです」
「………………」
思いがけず柚子の名が出て、証は驚いて身を起こした。
「……………は?」
そこで五十嵐は、一度深呼吸してからじっと証を見据えた。
「契約が終わった後……柚子さんと二度と会う気がないというのは本当ですか」
「……………」
証は怪訝そうに五十嵐の顔を見つめ返した。
「………なんで……んなことお前が……」
混乱したように証が声を上擦らせると、五十嵐は強い瞳で証の顔を射抜いた。
「柚子さんが好きだからです」
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