恋慕の交錯

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証から迎えに来てくれと連絡が入り、五十嵐は車をパーティー会場のホテルへ走らせた。 時刻は9時少し前。 思ったよりも少し遅めだった。 真冬だというのに、ハンドルを持つ手がかすかに汗ばんでいる。 想像以上に緊張しているようだった。 ホテルの入口に車を乗り入れると、既に証の姿があった。 五十嵐の車が停まると同時に、後部座席に乗り込む。 五十嵐はすぐに車を発進させた。 「悪いな、陸」 「いえ、お疲れ様でした」 五十嵐はチラリとバックミラーに映る証を見つめた。 「結構、飲まれたんですか?」 「いや。話が弾んで、あんまり飲む暇なかった」 言いながら証は少しネクタイを緩める。 それを聞いた五十嵐はホッとした。 あまり酒が入っている時に、こんな話はしたくなかったからだ。 五十嵐はグッとハンドルを持つ手に力を込めた。 「あの、証」 「ん?」 「少し……話があるんですが」 「話?」 証は窓の外に向けていた目を運転席に移した。 「何だよ、今言えねーのか?」 「少し、長くなると思うので」 「……ふーん? じゃあ、どっか店入るか?」 「いえ。できれば周りに誰もいないほうが」 「……………」 証は眉を寄せる。 一体、改まって何だと言うのだろう。 「……じゃあ、会社に戻るか?」 「はい。すみません」 五十嵐は前を向いたまま会釈する。 証は首を捻りながら再び窓の外に目を向けた。  
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