82人が本棚に入れています
本棚に追加
「──はい、それでは今日の授業はここまでにします」
歳が若く、眼鏡をかけた物腰の柔らかそうな英語女教師(確か雨宮だったか?)の合図で、四限目の授業が終了し昼休みとなる。しかし……。
「もう昼休みだってのに、まだ来ねぇのかよ"コイツ"は……相変わらず、オレより筋金入りの"不良"だな」
昼休みになっても空白のままの席──右隣を見て、オレはあきれたため息をつく。すると。
「おっはよー矢崎ぃ!」
(うわ、考えてたら来たよあのバカ)
右隣の席のヤツのことを考えていると、不幸なのか偶然なのか、ちょうど"その人物"が元気よく姿を現す。
「いやー、昨日たまたま昔ハマってたゲーム見つけちゃって、朝まで熱中しててさ~。そして寝て起きたらこんな時間になっちゃったよ~。テヘッ☆」
相変わらずのハイテンションで、そいつはいつものようにオレに話しかけてくる。
でも、テヘッ☆がなんかキモくてムカついたので、とりあえず──。
「悪い、普通に友達に話しかけてるみたいな空気感出してるけど……お前一体だれ?」
「はいぃぃ!? ちょっ、ボクたち普通に友達でしょ!? ってか、お前普通にボクのこと知ってるでしょーがっ!」
「あ? そうだったっけ?」
「そ う だ よっ!!」
オレの返事に、眉を吊り上げハァ、ハァ、と肩で息をしながら怒れる右隣の人物──いや、バカ。
「落ち着けって、そう怒るなよ。それがよ、昨日オレ転んじまって、運悪く頭を打ってな……それ以来、記憶喪失なんだオレ」
「えっ、マジかよ!? それじゃあ、本当にボクのことも!?」
すると、一転して急にマジな顔をしてオレを心配してくるバカ。
「ああ、実はそうなんだ。だから、お前みたいなバカ面、生まれて一度も見たことがない」
「ちょっ!! あんた本当に記憶喪失なの!? やたらシリアルな顔して言ってるけど、今ナチュラルにボクのこと軽くディスったよね!? ねぇ!?」
「してねーよ。つか、シリアルじゃなくて"シリアス"な」
朝に手軽に食べられるような顔って一体どんな顔だオイ。
「まぁとにかく、オレにわかるように自己紹介してくれ」
「そ、そっか……記憶喪失じゃ仕方ないよね。わかったよ矢崎。ボク、矢崎が思い出すよう、一生懸命自己紹介するよ!」
最初のコメントを投稿しよう!