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いっそ自分も柚子の体にキスマークをつけてやろうかとも思ったが、すぐに五十嵐は思い直した。
そんな安い挑発をして、わざわざ証を煽ることはない。
そんなことをしたら今度こそ逆上して証は柚子を襲いそうだ。
(………でも、このまま帰すのもなんかしゃくだな)
証にまざまざとこんな風に口付けの跡を付けられる柚子の無防備さには、やはり苛立ちを覚える。
………無理矢理キスをした自分に言う権利はないのかもしれないが。
緊張のせいか強く目を瞑っている柚子を見て、五十嵐は苦笑する。
(………少し、からかってみようかな)
そう思い、五十嵐は柚子の耳にそっと唇を寄せた。
「柚子さん」
名を呼ぶと、柚子は恐る恐る目を開けた。
怯えたような瞳で五十嵐を見上げる。
「…………はい」
「柚子さん、以前友達に、初体験の相手は年上の男の人がいいんじゃないかって言われたそうですね」
「………………」
「その時に俺の名前を出してくれたとか」
「あ、あれは……っ」
柚子は焦ったように首を振った。
「そういう意味ではなくてですね、つまりただ、私の周りには五十嵐さんぐらいしか、年上の男性がいないって、そういう……」
五十嵐の人差し指が、柚子の唇を押さえた。
柚子は言葉を奪われる。
「本当に、そうしてみますか」
「………………!」
柚子は瞠目し、唖然としたように五十嵐の顔を見つめた。
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