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「いいじゃーん。やっと夏休み、始まったんだし」
「だからって、毎日そうやってダラダラしてたら、アッという間に終わっちゃうわよ」
「うーん」
「どっかお出掛けでもしてきなさいよ。今日はそんなに、暑くないし」
母親の言葉に、のっそり顔を上げて窓の外を見やる。
確かに、日差しがそんなに厳しく無さそう。ではある。
お出掛け、ね。
それからすくっと立ち上がり、部屋で簡単に仕度を済ませると、私はあっという間に家を出た。
思い立ったが吉日だ。
しかし突然出たので当ても無く、とりあえずでコンビニへ向かう。
運が良ければウメが居るかもしれないし、読みたい雑誌もあるし。
そんな思い付きでコンビニへ出向いたが、そこはいつになく閑散としていた。
どういうわけか、店員の姿すら見当たらない。
いくら都会じゃないからって、無用心すぎでしょ。
サボるなバイト。
そう思いながら、私は目当ての雑誌を探す。
ふと、タウン誌が目に付いた。
花火特集の、大きな文字が表紙を飾っている。
それを手にとってパラパラ捲ると、花火カレンダーなるものに辿り着いた。
結構小さな花火大会まで載っていて、地元の市の花火大会の概要もある。
そして今日が、隣接市の花火大会の日であることを知った。
県内で言えば一番大きな、その花火大会。
今日だったんだ。うっかりしていた。
中学二年の時、練習後に部活のみんなで行った事を思い出す。
もちろん一平も居て、でも私はまだ一平への恋心に確信を持っていなくて、
その分とても無邪気だった。
男子がふざけて他校の女の子に声を掛けて、そのおふざけの筆頭が一平。
なんだかモヤモヤ。イラッとしたのを、今でも覚えている。
自覚はしていなかったけど、きっともう、一平のことが好きだった。
しかもその日、花火の後に私は先輩に告白されて、
そんなの初めてだったから随分舞い上がったっけ。
「加藤先輩、怖いもの知らずだな」
途中から一平と二人になる帰り道、私は先輩に告白された話をすると、一平は感心した様子でそう言った。
私は相談という体でその話を一平にしたけど、
今思えば、私のことを気にして欲しかったんだよなと笑える。
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