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「どういう意味。超しつれい」
「いやいや、高嶺の花に手ぇ出すなんて、勇気あるなーって意味で」
「絶対ちがったよね、今」
クツクツと、声を殺して楽しそうに笑う一平。
縁日で買ったアンパンマンのお面が、一平の頭でニコニコしていた。
それが無性に可笑しくて、むかつく。
「で、何て返事したの?」
「え?何が?」
そう返すと、一平は心から呆れた眼差しを寄越し、
お前バカなの?と呟く。
そう言えばこの頃、私たちの身長はそんなに大きく違わなかった。
いつの間にか、見上げるほどに差が出来ていたっけ。
「告白されて、何て返事したのかってことしか無いでしょう、今の流れ。寝てたのかよお前」
「ああ、そういう事か」
一瞬、告白された事実を奇跡的にうっかり忘れていた私は、一平の悪態に反論せずにアハハと苦笑する。
「もちろん、オッケーしたよ」
「えっ!マジ!?」
せめてもの仕返しにとうそぶくと、予想以上の反応が返ってきて驚いた。
私より二歩後ろで止まったまま、一平はアングリしている。
「え」
期待以上の結果を返されて、私も戸惑う。
「マジでお前、オッケーしたの」
目をぱちくりさせながら、物珍しそうに私を見つめる一平。
「や、ごめん、嘘。してない」
同じ様に目をぱちくりさせながらそう答えると、
一平の顔から力が抜けたように緩み、次の瞬間には般若のように歪んだ。
「てめぇ」
「アハハ。そんなに良いリアクションされるとは思わなかった。失敬、失敬」
「失敬じゃねぇ、このアンポンタン。俺先輩になんてお悔やみ申し上げようか、真剣に考えちゃったじゃねーか」
「ちょっと、何でよ。失礼。謝って」
「ソーリーエンドソーリー」
「余計腹立つわ。損した」
ムスッとして一平の脇腹に軽いパンチをお見舞いすると、
一平はそれを甘んじて受けて笑う。
そしてアンパンマンのお面をはずして、何故か私の頭に着けた。
「何。いらないんだけど」
「まぁまぁ、もらっとけって。厄除け厄除け」
「いや、いらなくない?厄除け。告白とかされて、むしろ好調なんだけど、今」
口ではそう言いながら、じゃれ合う空気が嬉しくて、顔が緩んでしまう。
一平も、楽しそうに笑っていた。
あのアンパンマンは、まだ部屋に飾ってある。
奴は今も、私の部屋で始終ニコニコしている。
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