幸せひとひら

11/35
前へ
/40ページ
次へ
手が疲れて、立ち読みしていた雑誌を下ろす。 目前のガラス窓の向こうには、陽炎の揺らめく道路が広がる。 「何、行きたいの?花火大会」 驚いて、飛びのいた。 これでもかってくらい、目を見開く。 「え、嘘。マジで気付いてなかったの、お前」 信じられない、という顔。 「一平…アンタいつからそこ居たの。怖いよ。ほんと気付いてなかった。心臓バクバク言ってんだけど」 「呆けすぎだろ、お前。そんな集中して立ち読みする奴があるかよ」 眉尻を下げて、クツクツと可笑しそうに笑う。 集中して立ち読みしてたんじゃない。 物思いにふけっていたんだ。 なんて、言えるわけない。 返す言葉が見つからなくて、私は頬を膨らませながら雑誌を閉じ、棚に戻した。 「花火大会、今日なんじゃん。行く?」 私の戻した雑誌を、一平が表紙を眺めるように持ち上げる。 「一平、どうしたの。部活は?」 「ばぁか。俺にだって、夏休みくらいあんだよ。さっき帰ってきた」 「そうなの」 パァッと、一気に心が晴れ渡る。 「で?行くの?行かないの?」 雑誌をチラつかせながら、得意げに横目で私を見下ろす一平の顔。 悔しいことに、この表情が、結構好きだ。 「行きたい」 素直にそう答えると、一平はヨシヨシと微笑んでくれた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加