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手が疲れて、立ち読みしていた雑誌を下ろす。
目前のガラス窓の向こうには、陽炎の揺らめく道路が広がる。
「何、行きたいの?花火大会」
驚いて、飛びのいた。
これでもかってくらい、目を見開く。
「え、嘘。マジで気付いてなかったの、お前」
信じられない、という顔。
「一平…アンタいつからそこ居たの。怖いよ。ほんと気付いてなかった。心臓バクバク言ってんだけど」
「呆けすぎだろ、お前。そんな集中して立ち読みする奴があるかよ」
眉尻を下げて、クツクツと可笑しそうに笑う。
集中して立ち読みしてたんじゃない。
物思いにふけっていたんだ。
なんて、言えるわけない。
返す言葉が見つからなくて、私は頬を膨らませながら雑誌を閉じ、棚に戻した。
「花火大会、今日なんじゃん。行く?」
私の戻した雑誌を、一平が表紙を眺めるように持ち上げる。
「一平、どうしたの。部活は?」
「ばぁか。俺にだって、夏休みくらいあんだよ。さっき帰ってきた」
「そうなの」
パァッと、一気に心が晴れ渡る。
「で?行くの?行かないの?」
雑誌をチラつかせながら、得意げに横目で私を見下ろす一平の顔。
悔しいことに、この表情が、結構好きだ。
「行きたい」
素直にそう答えると、一平はヨシヨシと微笑んでくれた。
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