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ヤキモチとかは、焼いてくれないんだ。
一平が嫉妬とか、確かに、あんまりイメージ湧かないけど。ちょっと寂しいし、つまらない。
「え。いつの間に機嫌悪くなってんの、お前」
その割りに、察しが早い。
変な男。
「別に、怒ってないよ。加藤先輩いい人だったなーって、思い出してただけ」
全然、そんなこと思い出しては居なかったけど、一平の反応が面白くない私は意地悪を言いたくなってしまう。
「あたしなんかに告白してくれてさ。怖いもの知らずだって、誰かさんには言われちゃったけど」
口を尖らせてそう言うと、予想とは違う反応が返ってきた。
「俺だって、お前に告白したんですけど?」
その一言で、心臓がドクンと、一度だけ優しく大きく震えたのが分かった。
「怖いもの知らずって言ったのだってねぇ、お前。気付いてなかったのかもしれないけど、あの時百合、先輩たちからめちゃくちゃ人気あったんだよ」
「え」
超、初耳。
「柔道部の、吉原先輩って分かる?何でかあの人までお前のこと狙ってるって噂で、だから、加藤先輩怖いもの知らずだなって言ったの」
うそ…
何と返していいか分からず、私はただ黙りこくる。
「高嶺の花に手ぇ出すなんて勇気あるなーって、俺、言わなかった?」
「言った…かも」
呟くと、コツンと頭を小突かれる。
「かもじゃねぇよ。言ったの。ったく、ほんとお前は人の話聞いてねーな」
「聞いてるよ。違うよ。あんなのまた、冗談で言ったんだと思ったんだよ。一平、いつも憎まれ口ばっかじゃん」
力無くも抗議の目を向けると、一平はブハッと勢い良く吹き出した。
「わた飴持って、怒んのやめて」
そう言って、楽しそうに笑う。
一瞬の間をおいてから、やがて沸々と言葉に出来ない怒りが込み上げてきて、私はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「うははっ。ごめんごめん、怒んなよ。百合ちゃん」
機嫌を取るように、私の顔を覗き込む。
横目で睨んで、それからまた目を逸らした。
すると一平は再び笑う。
「バカにしてごめんね?百合ちゃん。許して?」
「ねぇねぇ、許してもらう気ある?」
「ん?あるある」
なーさーそー。
一平の面白がっている顔を見て、そう思う。
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