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だけど、悔しいかな。
一平が楽しいと、私も心から楽しかった。
この辺でいいかと、本会場より少し手前で歩みを止める。
それでもすごい人手だった。
すると。
「百合、こっち」
繋いでいた手が離れ、腕を引かれる。
そうして後ろから、肩を包むように抱きしめられた。
私の頭の上にあごを乗せる一平。
口をパクパクさせて、私のつむじを攻撃する。
「痛いよ」
笑ってじゃれあっていると。
ヒューン
胸のスッとするような音が空を駆け抜け、そしてドォンと、大きな爆発音が響き渡った。
周囲から歓声が上がり、私も自然と声を上げる。
花火がすごく近い。
音が心臓にまで響いて、なんだかとても気持ちいい。
肩に回された腕に、少しだけ強く力が込められ、
頭に一平の頬が寄せられた。
こんなに幸せなことってあるんだろうか。
そんな風に思いながら、その一瞬一瞬の全てを胸に焼き付ける。
こんなに幸せなことってあるんだろうか。
そんな経験を、私は全て、一平と共に重ねていきたい。
どうしてか、無性に涙がこぼれそうだった。
花火大会からの帰り道。
あまりの人に、普通に道を歩くこともままならず、私たちは駅から離れた川沿いの道を、のんびり歩いていた。
帰りの切符も買っていなかったし、これでは電車に乗るのも一苦労だ。
ならば一駅だし、歩いて帰ろう。
そうなったのだった。
幸せの余韻を噛み締める、二人で歩く夏の夜道。
「ゆりー」
「なにー?」
「俺さー、たぶん、中二の時はもう、お前のこと好きだったんだと思うんだよねー」
一段高い縁石を歩く私の手を取りながら、一平はのんびり語る。
さっきの、続き。
「どうしたの、突然」
笑ってしまって、足がよろけた。
「いやー、何となく?さっき、あーそう言えば俺、あの時もう百合が好きだったのかなーって、ちょっと思って」
「ちょっとかよ」
「や、結構」
「アッハッハ」
私の嬉しそうな笑い声が、辺りに響いた。
「あの時、厄除けっつって、お前にアンパンマンのお面あげたの、覚えてるー?」
「覚えてるよー。まだ持ってるもん、アレ」
「え、うっそ!」
一平は本当に意外だったのか、私の手を引いたまま急に立ち止まるから、私はバランスを崩して縁石から降りた。
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