右側、青い街と赤い街。

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裏門に近付くにつれ、段々と高さを増す防壁を赤いサングラス越しに脳裏に渡す。 歩く度に、運動靴の中が乾燥しておらず、嫌な擬音が耳にこびりつく。しかも、非常に不快感があるのだ。 靴を放り出したいが、足元の砂利道を見て足裏を痛めて仕舞うと肺から息を絞る。 そうこうしていれば、門の数歩前に到着した。左右を一瞥し、右の青い服を着た人と左の赤い服を着た人を観察するが、お互い不可解そうに眉を寄せて無言を貫く。 「あー、なんつーか、通って悪い感じ?」 サングラスを右手の人差し指で下げ門番らしき中年男性二人を訝しげに見詰めれば我に帰ったのか口を開いた。 青い男性が言う。 「――、――――――、――」 「なんつってんだ、かわかんねー」 肩透かしに似た気分だ。 赤い男性が言う。 「――、――、――――。――?」 何か訊ねられたのは分かるが、何を訊ねているのだろうか。日本語を求める、切にだ。 赤い男性と青い男性が何やら襟首を掴み合い、怒号を何故か発し合う。会話が続かない最大の原因はコミニケーション能力じゃなく、相手への興味だと言うが、それは会話が成り立った場合じゃなかろうか。 俺は興味津々とはいかないが、それなりに興味があるのに、意味をなしていないように思えた。 「おいおい、意味わからん殴り合いは駄目だ。止めろよ、大人がみっともねーぞー」 適当に宥めるが、言葉が伝わらないのなら意味はない。どうしたものだろう。 真剣に熟考していれば、左肩を叩かれた。急に叩かれるのは二回目になるが、今回は素直に左に向く。 「おい、言葉が通じるか? あんた日本人、だろ? 伝わるか?」 濡れていた俺を触った手を然り気無く服で拭いているのを自業自得だと思いながら、答える。 「あー、まあ、伝わってるよ。つーかあれなんだ」 指を指した方向には殴り合いを始めた男性がいて、生々しい骨と肉が衝突する音が脳を振動させていた。 「おお、やはり、あんた同じ日本人か。おれはブルーマンやってる。異世界歴五年のベテランだ」 無視された。保留問題。
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