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「――だとすると」
立ち上がり、祭壇に向けば、青年は手を上げ、叫んだ。吠えたと言うべきだろう。
俺から見て右側が青い髪で赤い瞳、反対側が赤い髪に青い瞳の青年は目立つが、それよりも、何回も口にしている言葉は紛れもない。
「静粛に! 皆よ! 静粛に!」
日本語だ。なのにも関わらず、左右や眼前を埋め尽くす人々は言葉を理解しているのか、様々な反応を見せつつも口を閉じて行く。
話を聞くべきか、聞かないべきか。
悩みながらも、完全に冷えた身体を守るようにジャージのチャックを顎際まで引き上げ、ジャージのポケットに両手を差し込む。
「皆よ! 突然の出来事で困惑をしているに違いない! しかし私の話を聞いて頂けないだろうか!」
良いから話せと思う。だが、やはり俺だって乾杯……違うな。俺だって困憊している。
意味も分からず、何故だか何時の間にか見知らぬ此処にいて、主催者らしき青年位しかこの状況を理解していないのだから。
周りから鼓膜を揺さぶる会話から、全員が例外なく『分からない』事は分かっている。
ただし、それは会話をしている者だけの話だし、言葉が分かる者だけだ。俺のようになるべく壁際で事の顛末を傍観するような人間十数名。
全員一切の目立つ共通点はないが、強いて挙げるならば『こんな事態に慣れている』事だろう。
微かに視線も感じるし、辺りを観察しているのは確かだ。今はまだ敵意や殺意は感じれはしないけれども、二十代前後の青年の一言で殺意や敵意に埋め尽くされるのも、また、悪くない。
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