右側、青い街と赤い街。

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第一に、船底を覗くように身を乗り出し、今いる場所が何処なのか再認識した。 「有り得ない……こんな金属の塊が浮く筈がねー」 「だから言ったろ? おもしれーって」 振り返る。途端顔面にめり込む拳。宙に舞うサングラス。身体が後ろに仰け反り、塀が支柱となり足が床から離れた。 「――!」 叫びは風に打ち消され、背中を叩く突風や肌を滑る強風。 真上に浮かんでいたサングラスを右手で掴んだ時には遥か天空に、金属の塊が浮いていて、予想より遥かに巨大な……。 「――?」鯨。鯨、……、鯨だな。鯨だろ、見た目。尻尾がない、鯨。 無骨で機械的な飛行船には気球もなくば、それこそ浮力を起こす装置が見当たらない。 小さくなる大型飛行船。米粒程になった時、はっと思い出す。 そうだ俺は落ちていた。 「――!」 遅れて水柱が熾烈に上がる。深い青に染まり、透明なのに水色な、肌を痺れさせる冷水の中に俺は沈む。 揺らめく海面を見上げ、古今東西の財宝を詰め込んだ宝箱の中身を見上げるか如く、瞳に映る。 どうやら俺は大丈夫らしい。 海中の中、口に雪崩れ込んだしょっぱい水を吐き出し、洒落た赤いサングラスを掛けて、嘆息する。 口から気泡が零れ、海面に上がる経過に分散して礫として浮上した。 「ボゴ――ゴ」泳ぐか。そう決めて、海上に向けて身体で水を押し、前から掴んだ水を背後に流す。 そうすれば身体は上にするりと浮上して行く。最悪だ。嫌な出来事だ。鼻が少し痛いが、鼻血は出てはいない。 ただ単に、人を簡単に落とすような人間があれだけで済めば良いのだが。 海上に独り顔を出し、照り付ける太陽から目を守るサングラス。 辺りを一周見渡して、大きな島を見付けて安堵する。もしなければ、乾杯……違うな。困憊していた。 「……意味わかんねーな」 平泳ぎで淡々と、潮に流されずに揚々とは行かないかも知れないが、着々と島に向かう中、やっぱり分からないと思考した。
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