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「ねぇねぇ、こっちのコートとダウンとどっちがいいかな?」
ようやくタイツの色を決め終えた柚子が、今度は上に羽織る上着を何にするか悩み始めた。
「…………どっちでもいーんじゃね」
証はうんざりして適当な返事を返す。
自分は柚子の随分後に用意を始めたのだが、とっくに終わって今は煙草を吹かしながらの柚子待ちだ。
しかもこれで三本目である。
「えー、今の季節の大涌谷とかって寒いのかな。寒いんならやっぱりダウンだよね」
「じゃあそれにしたら」
「でもダウンはこのグレーのしかないんだよね。イマイチ可愛くなくない?」
「…………じゃあそっちのコートにしたら」
「んー。でもこれだと薄くて寒いかも」
「………………」
(………あー、もう、面倒くせぇ)
証はとうとう黙り込んだ。
何故女というのはこんなに準備に時間がかかるのか。
しかも恐ろしいことに、夕べのうちに一度全部決めたうえで、また今朝になって一から悩んでいるのだ。
「早くしろよ。道混むかもしんねーぞ。そうなったら予定一個減らすことになんぞ」
「………えっ、それはやだ!」
柚子は焦ったように再び鏡に向き直った。
「………よし! この際寒いのは我慢して、せっかくだからオシャレ重視にする!」
ようやく決断した柚子は、急いでコートに袖を通した。
証は溜息をつきながら煙草の火を消す。
上を下への大騒ぎの末、ようやく二人は出発の途につくことになった。
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