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証の後に入浴した柚子は、湯舟の中で今日一日のことをぼんやりと思い返していた。
(…………ホントに……楽しかった……な)
美術館も昼食も温泉も、何もかも楽しかった。
そして何より、証が優しかった……。
海辺で背後から抱きしめられ、頬を擦り寄せられたことを思い出し、柚子の胸がトクンと小さく疼いた。
(………何だろ。あの時もちょっと、胸がきゅうって苦しくなったんだよね……)
考えている間にクラクラしてきて、柚子は急いで湯舟から上がった。
バスタオルで髪を拭きながら浴室を出た柚子は、冷蔵庫へ向かいかけてふと足を止めた。
先に風呂から上がったはずの証が、まるで外出するような格好でリビングのソファーに座っていたからだ。
「どうしたの? 今からどこか出かけるの?」
柚子が尋ねると、証はゆっくりと立ち上がった。
静かな瞳で柚子を見つめる。
「話があるんだ」
重い声でそう言われ、柚子は髪を拭く手を止めた。
恐る恐る証の顔を見上げる。
「…………何? 改まって……」
そこで一度、証の瞳が大きく揺らいだ。
柚子は息を詰めて証の言葉を待つ。
二人は向かい合って、しばらく無言で視線を交わしていた。
掛け時計の秒針がカチカチと時間を刻む音が、やたらに大きく柚子の耳に届いた。
それに比例するように、何故か柚子の心臓もドクドクと激しく脈打ち始める。
………やがて証は一度小さく息を吸い、直後それを吐き出すようにして口を開いた。
「今日で、契約を解消する」
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