夢の終焉

21/40
2033人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
証の後に入浴した柚子は、湯舟の中で今日一日のことをぼんやりと思い返していた。 (…………ホントに……楽しかった……な) 美術館も昼食も温泉も、何もかも楽しかった。 そして何より、証が優しかった……。 海辺で背後から抱きしめられ、頬を擦り寄せられたことを思い出し、柚子の胸がトクンと小さく疼いた。 (………何だろ。あの時もちょっと、胸がきゅうって苦しくなったんだよね……) 考えている間にクラクラしてきて、柚子は急いで湯舟から上がった。 バスタオルで髪を拭きながら浴室を出た柚子は、冷蔵庫へ向かいかけてふと足を止めた。 先に風呂から上がったはずの証が、まるで外出するような格好でリビングのソファーに座っていたからだ。 「どうしたの? 今からどこか出かけるの?」 柚子が尋ねると、証はゆっくりと立ち上がった。 静かな瞳で柚子を見つめる。 「話があるんだ」 重い声でそう言われ、柚子は髪を拭く手を止めた。 恐る恐る証の顔を見上げる。 「…………何? 改まって……」 そこで一度、証の瞳が大きく揺らいだ。 柚子は息を詰めて証の言葉を待つ。 二人は向かい合って、しばらく無言で視線を交わしていた。 掛け時計の秒針がカチカチと時間を刻む音が、やたらに大きく柚子の耳に届いた。 それに比例するように、何故か柚子の心臓もドクドクと激しく脈打ち始める。 ………やがて証は一度小さく息を吸い、直後それを吐き出すようにして口を開いた。 「今日で、契約を解消する」  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!