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「えっとね。……その人と、付き合おうって…思ってる」
『………まあ、そうなの?』
奈緒子は意外そうな声を出した。
柚子はぎゅっと携帯を握りしめる。
「………ズルいと……思う?」
『え?』
「証との話がなくなった途端にその人にOKの返事するのって…ズルいのかな……」
すると奈緒子はしばらくの沈黙の後、はあっと大きな溜息をついた。
『あなたってホント、頭固いわよねぇ』
「え……」
『世の中のカップルの全員が全員、両思いで大恋愛の末に付き合ってると思ってんの?』
柚子は思わず黙り込む。
『半分はね、言われたからなんとなくとか、嫌いじゃないからとか。そんな理由で付き合う人も多いわよ。……柚子はガチガチに考え過ぎ』
「………でも」
『お母さんはアリだと思うけど。付き合ってから好きになることだって、よくあることよ?……嫌いじゃないんでしょ、その人のこと』
「も、もちろん」
柚子は五十嵐の顔を思い浮かべ、大きく頷いた。
「すごく私のこと大切にしてくれてるし、私も……その人のこと、すごく大切だから……」
『だったらいいじゃない。迷わずその人の胸に飛び込んじゃいなさいよ』
奈緒子はキッパリとそう言った。
その後、少し会話をしてから柚子は電話を切った。
結局、五十嵐が成瀬の血縁であることは話せずじまいだった。
「………………」
柚子は無言で畳に目を落とす。
…………本当は、わかっていた。
奈緒子なら、背中を押してくれること。
それがわかっていて。
ズルくないよと言ってほしくて。
答がわかっている質問をした自分は、やっぱりズルいな、と。
柚子は携帯を閉じながら、肩で息をついた。
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