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「おいおい、勘弁してくれよ。お前も秘書なんだからわかるだろ。守秘義務ってもんが……」
「それは重々わかってる!」
渋る東野に向かって、五十嵐は更に深く頭を下げた。
「知ってどうこうするつもりじゃないんだ。ただ何も知らないままじゃ俺も納得できないし、前に進めない」
「……………」
「絶対に誰にも他言はしないと約束する。だから……頼む」
土下座もしかねない五十嵐の様子に、東野は完全に毒気を抜かれてしまっていた。
困ったように瞳をさまよわせ、首の後ろを掻く。
「………………」
長い沈黙の後で、諦めたような深い溜息が聞こえ、五十嵐はゆっくりと顔を上げた。
仰ぎ見た東野は小さく苦笑を浮かべている。
「わかったから、頭上げろよ」
五十嵐は弾かれたように顔を上げた。
「すまない。無理を言って……」
「でも約束だぞ。会長にも証様にも、俺から聞いたって言うなよ?」
「わかってる」
五十嵐は膝をつめ、話を聞く体勢になった。
東野は迷いを断ち切る為か、一度ビールで唇を湿した。
「つーか、俺も深いところまでは知らないから、憶測も入るけど……」
「ああ、構わない」
そこで東野は辺りを見回し、小声で囁くように言った。
「お前、橘 柚子って女、知ってるか?」
「………………」
ドクン、と五十嵐の心臓が大きく弾む。
東野の口からその名が出たことに、ひどい違和感を覚えた。
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