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努めて平静を装い、五十嵐は口を開いた。
「…………その女性が、何か?」
「ああ。証様の恋人だったみたいで、しばらく同棲してたらしい」
「……………」
「で、それが会長の耳に入って、その女のこと調べろって言われたんだけど。……どうもその女の父親が、昔成瀬と因縁あったらしくてさ。会長は絶対に許さないっつって」
「……………」
そこまでは予想していたことだったので、五十嵐はさほど驚かなかった。
肝心なのは、この後のことだ。
「………で、会長は反対なさったのか?」
「ああ。証様は一度会長に、その女との交際を許してもらいに来たんだけど……結局は会長の言うことに、従わざるを得なかったみたいだな」
五十嵐は睨むように東野を見据える。
「何故だ?」
「………んー…。こっからは俺の憶測になるんだけど……」
東野は自信なさげに前髪を掻き上げた。
「その橘 柚子ってさ、父親の残した三千万もの借金を抱えてたんだよ。で、どういういきさつか証様がそれを肩代わりしたみたいでさ」
「……………」
「それをネタに、橘 柚子を恐喝罪で訴える準備を進めておいてくれって会長に言われたんだ」
「……………!」
五十嵐は言葉を失い、唖然として東野の顔を凝視した。
ドクン、ドクン、と耳の奥で重い鼓動がこだまする。
「き、恐喝罪って……それは、だって……」
「ああ、もちろん完全なるでっちあげだけどさ。そうやって盾に取ってでも、その女のこと諦めさせたかったんだろうな」
「……………」
五十嵐のこめかみを、冷たい汗が一筋流れ落ちていった。
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