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「俺は席を外してたからわからないけど、恐らく橘 柚子を訴えるって言われて、証様は会長の言うことを聞くしかなかったんだろうな」
「……………」
「そのすぐ後で証様が本社に戻ってくるって聞かされたし、橘 柚子を訴える準備も、もう進めなくていいって言われたからな」
五十嵐は激しい頭痛を覚え、強く額を押さえてうなだれた。
(だから……だから証は……)
柚子を守る為に。
柚子から身を引かざるを得なかった。
そしておそらく本社に戻れという条件を出され、それを飲むしかなかったのか……。
柚子に心ない言葉を投げ付け、遠ざけようとしたのも。
本来ならライバルである五十嵐に柚子を託したのも。
苦労して自身の力で立ち上げた会社を去り、本社に戻る決意をしたのも。
全ては、柚子を守る為……。
「おい、五十嵐? 大丈夫か、顔真っ青だぞ?」
突然、青ざめて黙り込んだ五十嵐を見て、東野は心配そうに顔を覗き込んできた。
吐き気を覚え、五十嵐は口元を手で覆う。
「……………悪い、東野」
「俺はいいよ。それよりもう帰ったほうがいいんじゃねーか?」
「……………」
大丈夫、と口にしかけたが。
今のこの状況で飲み続ける精神力は、ないようだった。
「………悪いけど、今日は帰らせてもらう」
「ああ、わかった。待ってろ、タクシー呼んでやるから」
五十嵐は込み上げる嘔気をこらえながら、東野が携帯を持って店の外に出ていくのをぼんやり見つめていた。
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