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東野が呼んだタクシーに乗り込む頃には、ようやく五十嵐の気持ちも落ち着き始めていた。
後部席の窓から東野を見上げる。
「悪いな、俺から誘ったのに。この埋め合わせはするから」
「構わねーよ。色々あって、お前も疲れてんだろ」
東野はそう言って笑顔を見せた。
軽く手を上げ、窓を閉めると同時にタクシーが出発する。
五十嵐は俯いて、唇を強く噛み締めた。
(………伯父上。あなたは成瀬の為に、そこまでなさるのか……)
証の柚子への想いを少しも汲み取ろうとせず、逆にそれを利用して証を追い詰めるなんて。
柚子を訴えると言われた時の証の動揺は、想像に難くない。
ただでさえ柚子は、成瀬のせいで人生を狂わされた。
夢を持って頑張っている柚子を、これ以上苦しめたくないと思うのは当然のことだ。
自分が犠牲になることで柚子を守ることができるなら。
自分だって、証と同じ選択をしただろう。
五十嵐は窓の外に目を向ける。
思い出すのは、子供で我が儘で、およそ人の為に何かをするなどとは縁遠かった年下の従兄弟の顔。
気ままで気分屋で、自分もよくそれに振り回された。
…………一体、いつからこんなに大人になったのだろう。
自分を犠牲にしても、大切な人を守ろうとするなんて、そんな人の愛し方を一体いつ覚えたのだろう。
(…………証………)
こんな形で証の成長を目の当たりにしたことが切なく、またどうしようもなくやるせなかった……。
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