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三千万の借金を返せたのも、こうして今このアパートにいられるのも、証のおかげだ。
…………たとえそれが、罪滅ぼしだったとしても……。
ポタッとフォトフレームに涙が落ち、柚子は慌てて目元を拭った。
(………あーもう、気を抜くとすぐこれだ)
自分はいつからこんなに弱くなったのだろう。
早く気持ちを切り替えないと…。
(10ヶ月前に戻っただけ! この10ヶ月、私は夢を見てたの!)
ぐしぐしと涙を袖口で拭き、フォトフレームを鞄に仕舞ったその時だった。
ピンポン、と呼び鈴が鳴らされた。
柚子はビクッとして玄関を振り返る。
(………まさか……)
髪を切られた時。
あの時もこうして真っ暗な部屋で一人で泣いていた。
そうしたら、証が迎えに来てくれた……。
柚子は慌てて玄関へ向かい、勢いよくドアを開けた。
「……………!」
目の前に立つ人物を見て柚子は目を見張る。
そこに立っていたのは証ではなく……。
驚いた顔で佇む五十嵐だった。
「い……五十嵐……さん……」
「びっくりした、電気が点いてないから留守かと思いましたよ」
五十嵐は柚子の顔を見てゆるく微笑んだ。
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