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五十嵐との電話を切った柚子は、ふーっと大きく息をついた。
(8時…か。買い物してから行くにしても、夕方までは余裕あるよね)
朝の間に電気もガスも連絡を済ませ、今は大掃除の真っ最中だった。
(お母さんに連絡するのも、バイト探すのも明日でいいや。なんか色々聞かれるの面倒臭いし)
証を…というより成瀬全体を敵視している奈緒子に、今回のことを全て話すのは時間がかかる。
恐らく証に対して激怒するのは、目に見えていた。
そして前回は濁したが、五十嵐のことも説明しなくてはならない。
五十嵐も成瀬の血縁である以上、奈緒子が反対するのは必至であった。
(まだ、ちゃんと返事した訳じゃないけど……)
柚子はじっと五十嵐から預かった鍵を見つめる。
柚子の気持ちは、五十嵐の想いに応える方向に傾いていた。
(五十嵐さんと一緒にいたら、気持ちが安らぐもん。優しいし、私のことすごく想ってくれてるし……)
現にこうして夕方から五十嵐の為に夕飯を作る予定があるだけで、楽しい気持ちになれる。
五十嵐の為に何を作ってあげようかと、そう考えるだけでワクワクしてしまう。
(うん、平気。証のことは、もう忘れる)
まだ体中、心中に証の思い出が染み付いて。
証のことを思い出すと、やっぱりまだそれらがキュンキュン痛むけれど。
いつか時間が忘れさせてくれる。
歩く道は違ってしまったけど、証が成瀬の為に生きていくことを選んだのなら。
自分もまた、自分の歩む道を、しっかり前を見据えて歩いていこう。
そしていつか、証のことを思い出しても、胸が痛まず彼の幸せを心から願える日が訪れるように……。
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